着物の文様は、すべて何らかの意味を持っています。 縁起の悪いものは存在しません。 人は様々なものを具象化し、意味を見出し、文様として着物にその思いを込めていました。 その全てに日本人の感性、美意識、日本語ならではの言葉遊びが生きています。
文様の中でもとりわけおめでたい文様に吉祥文様と呼ばれるものがあります。吉祥とは「良い兆し・めでたい印」という意味で、それを表現した文様の総称を吉祥文様と言います。代表的なものには、松竹梅、鶴亀、桐鳳凰、宝尽くし、橘など着物の柄としても馴染み深いものばかり。
「松・竹・梅」 冬の寒さに耐えて緑を保つ松・竹、寒さの厳しい中で花を咲かせるところから、この三つを中国では歳寒三友と呼び、節操と清廉を象徴しています。
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「松・竹・梅」
冬の寒さに耐えて緑を保つ松・竹、寒さの厳しい中で花を咲かせるところから、この三つを中国では歳寒三友と呼び、節操と清廉を象徴しています。
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「鶴・亀」
鶴は千年、亀は万年生きると言われていることから長寿の意味。
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「宝尽くし」
宝珠・隠れ蓑・砂金袋・打ち出の小槌・宝鍵・丁字・祇園守・分胴 ・法螺・宝剣、などなど、これら全てがそろわなくても宝尽くしと呼びます。
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「橘」
長寿を招き元気な子供を与えると信じられていた。
何気なく、「おめでたい柄である」という認識のもとに身につけられていますが、何故おめでたいのか意外と意味までは知らないものです。他にも、こんな語呂合わせのようなものもあります。
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「瑞雲」
古来、千変万化する雲の形に吉凶の意を託していたが、中でも瑞祥を表す雲を図案化した。
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「まんじゅう菊」
まんじゅう→まんじゅ→万寿、で長寿の意味。
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「鎌輪奴(かまわぬ)」
「鎌」と「○」と「ぬ」の字で「構わぬ」と読み、「水火も厭わず身を捨てて弱いものを助ける」という心意気を示す町奴達が着ていました。
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「斧琴菊(よきこときく)」
「斧(よき)」と「琴」と「菊」を合わせて「良き事聞く」と読ませます。団十郎の鎌輪奴に対抗して三代目尾上菊五郎が衣裳に使いました。
また、そのものの在り方などからも意味が発生します。
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鴛鴦(おしどり)
常に離れず、並んで泳ぎ、眠るときにも翼を交わすことから、夫婦円満。
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桜
盛大に花を散らすことから、悪いものを撒き散らす。
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麻
丈夫でまっすぐ成長するため、子供の下着によく使われる。
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扇子
末広がりで、将来の出世。
以上のように全てにおいてポジティブな解釈で、意味を見出す。これらは日本人ならではの自然への接し方から生まれたのかもしれません。自然と共存して、そこから八百万の神を見つけ出す。そんな視点で世界を見てきた先人の知恵と豊かな美意識によって、文様という文化がこれほどの広がりを見せたのでしょう。
美の追求と遊び心。着物の楽しみ方も文様を知るともっともっと広がります。文様はそれぞれ単独で意味を持ちますが、着物と帯の文様の組み合わせで、お互いの持ち味を高める効果があります。 色調だけでなく、文様をうまく組み合わせる事で、自分の心持ちや相手に対する心遣いを表す事も出来ます。
たとえば、紅葉の着物に鹿の文様の帯を合わせた場合、
「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき」
の歌を表します。
また、紅葉と流水の組み合わせは、紅葉の名所であることから竜田川を示します。
これもまた古今集の
「竜田川紅葉乱れてながるめりわたらば錦中やたえなむ」
に由来すると言われています。
さらに言えば、この竜田川文から伊勢物語の
「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれないに水くくるとは」
という歌に連想がいき、在原業平朝臣にちなんで業平菱を合わせるなんてことも。
このように、文様同士の取り合わせや、その由来を知ると文学的背景に重ね合わせたコーディネートとして知識と教養を兼ね備えた最上級の着物のお洒落が楽しめます。着物の世界は、文様ひとつとっても本当に奥が深いですね。
竜田川文
業平菱