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留袖や喪服に当たり前のように付いている「紋」。「家」という考え方が薄れてきた現在では装飾的な要素が大きいのですが、元々は、その家の由緒経歴を象徴するものとして、大変重要なものでした。

家紋の歴史

家紋の起源には様々な説がありますが、公家と武家とでは起こりが違うようです。 
公家社会では、平安の頃から装飾も兼ねていた自家用の車の文様や、衣服に用いられていた花や植物などの文様が次第に家紋に転化していったものが主で、装飾的で優雅なもの。
一方、武家の場合は幾多の戦場において味方を識別する目的、および武勲を明確にするための旗印や馬印が必然的に求められ、単純で鮮明な図形が発達しました。鎌倉幕府の成立によって、公家が政権の座から去り、家紋を用いられる機会が無くなったのに対して、武家は旗や幕に盛んに用いられ、ほとんどの武士が家紋を持つようになります。

やがて太平の世になり、武具が無用のものになると、家紋は服装による威儀を正す目的で使われるようになります。儀礼の上で家格や門地を明確にする必要性から、礼服(裃)に家紋を付けるようになりました。 ところが元禄時代になると、華美になった風習に合わせて衣服や調度にまで家紋があしらわれ、本来の目的からはなれた、装飾としての家紋が普及します。庶民の間にもこの風潮が現れ、伊達紋、加賀紋、鹿の子紋、比翼紋、崩紋など、飾りとして発展していきました。

家紋の種類

紋の種類は紋帖(家紋のカタログのようなもの)に載っているものが約5000種。そのうちよく使われるのは100種くらいですが、紋帖に載っていないものや創作も入れると無限です。 現代では、着物に紋を入れる場合、様々なルールがあります。紋の数や表し方で格が違ってくるのです。

紋入れの技法

【染め抜き紋】布地に白く染め抜いた正式の紋。石持ち(こくもち)という着物を染めるときにあらかじめ紋の入る所を白い丸に染め抜いておいた部分に、注文に応じて後から紋を描き入れます。

【張り付け紋】同じ地質の布に紋を染め抜き、切り抜いて着物に貼り付ける略式の紋。貸衣裳などで自分の紋が入っていない場合などに臨時で付けます。

【縫い紋】紋の形を縫い取りしたもの。縫い方にけし縫い、すが縫い、絞り縫いなどがあり、女性の略礼装用、おしゃれ用に使われます。

紋の表し方

【日向紋(ひなたもん)】表紋とも呼ばれ、紋の形を白く染め抜いたもの。

【中陰紋(ちゅうかげもん)】紋の輪郭線を太く表したもの。主に染め抜き紋にします。

【陰紋(かげもん)】紋の輪郭線だけを白く抜いたもので、同じ大きさでも日向紋よりも小さく見えます。主にぬいとり紋に使います。

【のぞき紋】紋を輪の隅に半分のぞかせたもの。

  • 「五三桐」

    日向紋

    日向紋

  • 「中蔭五三桐」

    中蔭紋

    中蔭紋

  • 「惣蔭五三桐」

    蔭紋

    蔭紋

  • 「糸輪に覗き桔梗」

    のぞき紋

    のぞき紋

紋の数

【五つ紋】背・両胸・両袖で合計5つの紋を付けます。黒留袖、喪服などの正礼装で最も格の高い形です。染め抜き紋を入れます。

【三つ紋】背・両袖に計3つ。格付けは準礼装。男性は無地羽織に縫い紋で、女性は色留袖や色無地と羽織に染め抜きや縫い紋を付けます。

【一つ紋】背に1つ。女性の略礼装訪問着、色無地、江戸小紋、羽織に付ける。

紋の位置

背紋・・・衿付けから一寸五分袖紋・・・後ろ袖、袖山から二寸抱き紋・・・肩山から四寸~四寸五分

しゃれ紋

【伊達紋】多くは古歌や名所に因んだ文字や絵、文様から転化。商家などの屋号の印。

【加賀紋】創作の奇抜な紋。本来は色染めのものを呼びましたが、現在ではカラフルな色糸で刺繍した紋が多い。

【鹿の子紋】鹿の子染め。

【比翼紋】男女互いに相思の家紋を並置。

【崩紋(くずしもん)】家紋を改作。

加賀紋

家紋には定紋・表紋・本紋・正紋と呼ばれる公認のものと、副紋・替紋・裏紋・控紋などと呼ばれる略式、非公式のものがあります。先祖の武功と伝統を意味する定紋は、改変されること無く、代々受け継がれて公式の場合に用いられました。武功などで君主からいただいた紋を下賜紋といいますが、こういった場合、拝領した紋を定紋とし、従来の紋を副紋としました。

皇室の紋は、菊紋(十六葉八重表葉菊)を定紋、桐紋が副紋になっています。皇族の紋はいずれも菊花の表現を少しずつ変えて用いられます。昔は一般でも菊紋が使われていましたが、明治二年に菊花は皇室の紋章として制定されて、一般人の使用は禁止されました。菊を大変好んでいた後鳥羽上皇が、日常の調度品や衣服などに菊の紋を用いたのが始まりで、それが天皇家に受け継がれていったのです。

では、桐が天皇家の紋になったのはどうしてか。中国の故事に「皇帝が中宮に斎く時、鳳凰が帝の東園に止まり、悟桐(アオギリ)に集まって、竹の実を食す」というくだりがあり、鳳凰の出現は聖天子の出現を意味し、桐はその鳳凰の止まり木とされています。天皇の御衣である黄櫨染(こうろぜん)の御袍に、桐・竹・鳳凰の文様が入っているのはこのためです。ここから、桐が聖天子のシンボルとして使われるようになりました。

この桐の紋は皇室だけでなく広く好まれていました。とくに足利氏が朝廷からこの紋を賜り、代々これを家紋にしていました。豊臣秀吉なども桐紋を皇室から下賜され、さらに部下へ与えたりしていました。天下の大将軍から桐紋を下賜されることは名誉なので、さらにそれを家臣に再下賜するという事態が起こり、どんどん広がっていったのです。現在でも、通紋(誰でも使える紋)として留袖や喪服の既製品などにあらかじめはいっている紋に最もよく使われているのが「五三の桐」です。【紋の表し方】の所に使っている画像がこの紋です。

ご自身の着物にこの紋が入っているという方もいらっしゃるのではないでしょうか?「女紋」と呼ばれるものがあります。これは、家に代々伝わる家紋とは別に、女性だけが使用する紋です。本来、家紋は家を表すものだったので、女性が使うことはありませんでした。戦乱期の終わった徳川時代に、武家の娘が嫁ぐときに実家の紋を持っていったのが始まりのようです。

お持ちの着物に入っている紋とお墓などに入っている紋が違うものだったりすることがあったら、着物の紋が女紋だからです。定紋をそのまま使用することもありますが、定紋が無骨だったりした場合、女性らしさを表現するために、定紋の一部を変えたりして使いました。定紋に関係なく、好みのものを創作したりもするようです。

西日本では、嫁入りする時にあつらえる着物に実母の紋を入れるそうですが、関東では婚家の紋を入れるそうです。地域によって習慣に違いがあるようで、この習慣の違いのためにトラブルが起こることもあるようですが、祖母から母へ、そして自分に、あるいは姑から、代々女性から女性へと受け継がれていく伝統は大切にしたいですね。